無量義経徳行品第一

其(そ)の菩薩の名を、文殊師利法王子(もんじゅしりほうおうじ)・大威徳蔵法王子(だいいとくぞうほうおうじ)・無憂蔵法王子(むうぞうほうおうじ)・大弁蔵法王子(だいべんぞうほうおうじ)・弥勒菩薩・導首菩薩(どうしゅぼさつ)・薬王菩薩・薬上菩薩(やくじょうぼさつ)・華幢菩薩(けどうぼさつ)・華光幢菩薩(けこうどうぼさつ)・陀羅尼自在王菩薩「だらにじざいおうぼさつ)・観世音菩薩・大勢至菩薩・常精進菩薩・寶印首菩薩(ほういんしゅぼさつ)・寶積菩薩(ほうしゃくぼさつ)・寶杖菩薩(ほうじょうぼさつ)・越三界菩薩(おつさんがいぼさつ)・毘摩颰羅菩薩(びまばつらぼさつ)・香象菩薩(こうぞうぼさつ)・大香象菩薩・獅子吼王菩薩(ししくおうぼさつ)・獅子遊戯世菩薩(ししゆうけぜぼさつ)・獅子奮迅菩薩(ししふんじんぼさつ)・獅子精進菩薩(しししょうじんぼさつ)・勇鋭力菩薩(ゆうえいりきぼさつ)・獅子威猛伏菩薩(ししいみょうぶくぼさつ)・荘厳菩薩(しょうごんぼさつ)・大荘厳菩薩という。

是の如きらの菩薩摩訶薩八万人供なり。

是(この)もろもろの菩薩、皆これ法身(ほっしん)の大士(だいし)ならざることなし。

戒(かい)・定(じょう)・慧(え)・解脱・解脱知見(げだつちけん)の成就せるところなり。

その心、禅寂(ぜんじゃく)にして常に三昧(さんまい)に在って恬安憺怕(てんなんたんぱく)に無為無欲なり。

顛倒乱想(てんどうらんそう)、復(また)入ることを得ず。

静寂清澄(せいじゃくしょうちょう)に、志玄虚漠(しげんこまく)なり。

これを守って動ぜざること億百千劫(おくひゃくせんこう)、無量の法門、ことごとく現在前(げんざいぜん)せり。

大智慧を得て、諸法を通達(つうだつ)し、性相(しょうそう)の真実を暁了(ぎょうりょう)し分別するに、有無長短、明現顕白(みょうげんけんびゃく)なり。

又善くもろもろの根性欲(こんじょうよく)を知り、陀羅尼・無礙弁才(むげべんざい)をもって、諸仏の転法輪(てんぽうりん)、随順してよく転(てん)ず。

微渧まず堕(お)ちて、以て欲塵(よくじん)を淹(ひた)し、涅槃の門を開き、解脱の風を扇いで、世の熱悩(ねつのう)を除き法の清涼(せいりょう)を致す。

次に甚深(じんじん)の十二因縁を降らして、用(もっ)て無明・老・病・死等の、猛盛熾然(みょうじょうしねん)なる苦聚(くじゅ)の日光に灑(そそ)ぎ、しこうして乃(すなわ)ちおおいに無上の大乗を注いで、衆生の諸有(しょう)の善根を潤漬(にんし)し、善の種子を布いて功徳の田(でん)に遍(へん)じ、普(あまね)く一切をして菩提の萌(め)を発(おこ)さしむ。

智慧の日月・方便の時節・大乗の事業を扶蔬増長(ふそぞうちょう)して、衆をして疾(と)く阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい)を成(じょう)じ、常住の快楽(けらく)、微妙(みみょう)真実に、無量の大悲、苦の衆生を救わしむ。

是もろもろの衆生の真の善知識(ぜんちしき)、

是もろもろの衆生の大良福田(だいりょうふくでん)、

是もろもろの衆生の請(しょう)せざるの師、

是もろもろの衆生の安穏の楽処(らくしょ)・救処(くしょ)・護処(ごしょ)・大依止処(だいえししょ)なり。

処処に衆生の為に大良導師(だいりょうどうし)・大導師となる。

よく衆生の盲(めし)いたるが為には、しかも眼目を作(な)し、

聾(りょう)・劓(ぎ)・啞(あ)の者には耳・鼻・舌を作し、

諸根(しょこん)毀缺(きけつ)せるをばよく具足せしめ、顛狂荒乱(てんのうこうらん)なるには大正念(だいしょうねん)を作さしむ。

船師(せんし)・大船師なり、羣生(ぐんじょう)を運載(うんさい)し、生死(しょうじ)の河を度(わた)して、涅槃の岸に置く。

医王・大医王なり。病相を分別し薬性(やくしょう)を暁了して、病に随って薬を授け、衆をして薬を服せしむ。

調御(じょうご)・大調御なり。もろもろの放逸の行なし。猶(なお)、象馬師(ぞうめし)のよく調うるに調わざることなく、獅子の勇猛(ゆうみょう)なる威(い)、衆獣(しゅうじゅう)を伏して沮壊(そえ)すべきこと難きが如し。

菩薩の諸波羅蜜に遊戯(ゆけ)し、如来の地に於いて堅固にして動ぜず。願力に安住して、広く仏国を浄め、久しからずして阿耨多羅三藐三菩提を成ずることを得(う)べし。

是(この)もろもろの菩薩摩訶薩、皆、斯(かく)の如き不思議の徳あり。