爾(そ)の時に仏、諸(もろもろ)の菩薩(ぼさつ)及(およ)び天・人・四衆に告(つ)げたまわく。
我、過去無量劫の中に於て法華経を求めしに、懈倦(けけん)有ること無し。多劫(たこう)の中に於て、常に国王となって、願(がん)を発(おこ)して無上菩提(むじょうぼだい)を求めしに心退転(こころたいてん)せず。六波羅蜜(ろくはらみつ)を満足(まんぞく)せんと欲(ほっ)するを為(も)って布施(ふせ)を勤行(ごんぎょう)せしに、心に象馬(ぞうめ)・七珍(しっちん)・国城(こくじょう)・妻子(さいし)・奴婢(ぬび)・僕従(ぼくじゅう)・頭目(ずもく)・髄脳(ずいのう)・身肉(しんにく)・手足(しゅそく)を悋惜(りんじゃく)することなく、躯命(くみょう)をも惜(おし)まざりき。
時に世の人民、寿命無量なり。法の為の故に国位を捨てて政(まつりごと)を太子(たいし)に委(まか)せ、鼓(つづみ)を撃(う)って四方に宣令(せんりょう)して法を求めき。誰か能く我が為に大乗を説かん者なる。我、当(まさ)に身終(みおわ)るまで供給(くきゅう)し走使(そうし)すべし。