爾の時に摩訶迦葉、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言さく
我等、今日(こんにち)仏の音教(みおしえ)を聞いて、歓喜踊躍して未曽有なることを得たり。仏、声聞(しょうもん)当に作仏することを得べしと説きたもう。無上の宝聚(ほうじゅ)求めざるに自ずから得たり。
譬えば童子(どうじ)、幼稚無識(ようちむしき)にして、父を捨てて逃逝(じょうぜい)して遠く佗土(たど)に到りぬ。諸国に周流(しゅうる)すること五十余年、其の父、憂念(うねん)して四方に推(たず)ね求む。之を求むるに既に疲れて一城に頓止(とんし)す。舎宅(しゃたく)を造立(ぞうりゅう)して五欲に自ら娯(たのし)む。其の家、巨(おおい)に富んで諸の金・銀・硨磲・瑪瑙・真珠・瑠璃多く、象・馬・牛・羊・輦輿(れんにょ)・車乗(しゃじょう)・田業(でんごう)・僮僕(どうぼく)、人民衆多(にんみんしゅうた)なり。出入息利(すいにゅうそくり)すること、乃ち佗国に徧(あまね)し。商估賈人(しょうここにん)処(ところ)として有らざること無し。千万億(せんまんのく)の衆、囲繞(いにょう)し恭敬し、常に王者に愛念(あいねん)せらるることを為(ねがう)。群臣豪族(ぐんじんごうぞく)、皆共に宗重(しゅうじゅう)し、諸の縁を以ての故に往来する者衆(おお)し。豪富(ごうふ)なること是の如くにして大力勢あり。