長者、是の時、師子の座に在って、遥かに其の子を見て、黙(もく)して之を識(し)る。即ち使者に勅(ちょく)して、追い捉(とら)え将(ひき)いて来(きた)らしむ。
窮子、驚(おどろ)き喚(よ)ばい、迷悶(めいもん)して地に躃(たお)る。是の人、我を執(とら)う。必ず当に殺さるべし。何ぞ衣食を用(も)って我をして此に至らしむる。
長者、子の愚痴狭劣(ぐちきょうれつ)にして我が言(ことば)を信ぜず、是れ父なりと信ぜざるを知って、即ち方便を以て、更に余人(よにん)の眇目(みょうもく)・矬陋(ざる)にして威徳なき者を遣わす。
汝、之を語って云うべし。当に相雇(あいやと)うて諸の糞穢(ふんね)を除(はら)わしむべし。倍(ま)して汝に価を与えんと。
窮子、之を聞いて、歓喜し隨い来って、為に糞穢を除(はら)い、諸の房舎(ぼうしゃ)を浄(きよ)む。
長者、牖(まど)より常に其の子を見て、子の愚劣にして楽(ねが)って鄙事(ひじ)を為すを念(とまど)う。
是(ここ)に長者、弊垢(へいく)の衣(ころも)を著(き)、除糞の器を執って、子の所に往到(おうとう)し、方便して附近(ちかづ)き、語って勤作(ごんさ)せしむ。既に汝が価を益し、並に足に油を塗り、飲食充足(おんじきじゅうそく)し、薦席厚暖(せんじゃくこうなん)ならしめん。