真珠瓔珞(しんじゅようらく)の価直千万(けじきせんまん)なるを以て其の身を荘厳(しょうごん)し、吏民・僮僕、手に白払(びゃくほつ)を執(と)って左右に侍立(じりゅう)せり。覆(おお)うに宝帳(ほうちょう)を以てし諸の華旛(けばん)を垂(た)れ、香水を地に灑(そそ)ぎ衆(もろもろ)の名華(みょうけ)を散じ、宝物を羅列して出内取与(しおぬいしゅよ)す。是の如き等の種々の厳飾(ごんじき)あって威徳特尊(いとくとくそん)なり。
窮子、父の大力勢(だいせいりき)有るを見て、即ち恐怖を懐いて、此に来至せることを悔(く)ゆ。竊(ひそ)かに是の念を作(な)さく、此れ或(あるい)は是れ王か、或は是れ王と等しきか。我が傭力(ゆうりき)して物を得べきの処に非ず。如(し)かじ貧里(びんり)に往至(おうし)して、肆力(しりき)地(ところ)あって衣食(えじき)得易(えやす)からんには。若し久しく此に往せば、或は逼迫(ひっぱく)せられ強(し)いて我をして作(な)さしめん。是の念を作し已って、疾(と)く走って去りぬ。
時に富める長者、師子(しし)の座に於て、子を見て便ち識(し)りぬ。心大に歓喜して即ち是の念を作さく、我が財物・庫蔵、今、付(ふ)する所あり。我、常に此の子を思念すれども之を見るに由(よし)無し。而(しか)るを忽(たちま)ちに自ずから来(きた)れり。甚だ我が願に適(かな)えり。我、年朽(としく)ちたりと雖(いえど)も猶故(なお)貪惜(とんじゃく)す。
即ち傍人(ぼうにん)を遣(つか)わして、急(きゅう)に追(お)うて将(ひき)いて還(かえ)らしむ。爾の時に使者、疾(と)く走り往(ゆ)いて捉(とら)う。
窮子(ぐうし)、驚愕(きょうがく)して、怨(あだ)なりと称(しょう)して大(おおい)に喚(よ)ばう。我、相犯(あいおか)さず、何(なん)ぞ捉(とら)えらるることを為(う)る。使者、之を執(とら)うること愈(いよいよ)急(きゅう)に、強(し)いて牽将(ひき)いて還(かえ)る。