信解品第四

其の父、子を見て愍(あわれ)んで之を怪(あやし)む。又、佗日(たじつ)を以て窓牖(まど)の中(うち)より、遥に子の身を見れば、贏痩憔悴(るいしゅしょうすい)し、糞土塵坌(ふんどじんぼん)、汚穢不浄(わえふじょう)なり。即ち瓔珞(ようらく)・細軟(さいなん)の上服(じょうぶく)・厳飾(ごんじき)の具(ぐ)を脱(ぬ)いで、更(さら)に麤弊垢膩(そへいくに)の衣(ころも)を著(き)、塵土(じんど)に身を坌(けが)し、右の手に除糞(じょふん)の器(うつわ)を執持(しゅうじ)して、畏(おそ)るる所有るに状(かたど)れり。諸の作人(さにん)に語らく、汝等、勤作(ごんさ)して懈息(けそく)すること得ること勿れと。

方便を以ての故に其の子に近づくことを得つ。後に復、告げて言わく、拙(つたな)や男子、汝、常に此にして作せ、復、余に去ること勿れ。当に汝に値を加うべし。諸の所須(しょしゅ)ある盆器(ぼんき)・米麺(まいめん)・塩酢(えんそ)の属(たぐい)あり。自ら疑い難(はばか)ることなかれ。亦、老弊(ろうへい)の使人(しにん)あり。須(もち)いば相給(あいたま)わん。好(よ)く自ら意を安(やす)くせよ。我、汝が父の如し。復、憂慮(うりょ)することなかれ。所以は何ん。我、年老大(としろうだい)にして汝、小壮(しょうそう)なり。汝、常に作さん時、欺怠(ごたい)・瞋恨(しんこん)・怨言(おんごん)有ることなかれ。都(すべ)て汝が此の諸悪(しょあく)有らんを余(ほか)の作人の如くに見じ。今より已後、所生の子の如くせん。即時に長者、更(さら)に与(ため)に字(な)を作(つく)って、之を名けて児(こ)とす。

爾の時に窮子、此の遇(ぐう)を欣(よろこ)ぶと雖(いえど)も、猶故(なお)自ら客作(かくさ)の賤人(せんにん)と謂(おも)えり。是れに由るが故に二十年の中(あいだ)に於て常に糞(あくた)を除(はら)わしむ。