化城喩品第七

其の仏、未(いま)だ出家(しゅっけ)したまわざりし時に十六の子(みこ)あり。其の第一をば名を智積(ちしゃく)という。諸子、各(おのおの)種々(しゅじゅ)の珍異玩好(ちんにがんこう)の具(ぐ)あり。父、阿耨多羅三藐三菩提を成ずることを得たもうと聞いて、皆、所珍(しょちん)を捨てて仏所(ぶっしょ)に往詣(おうけい)す。諸母(しょも)涕泣(たいきゅう)して隨(したが)って之(みこ)を送る。其の祖、転輪聖王(てんりんじょうおう)、一百の大臣及び余の百千万億の人民と、皆共に囲繞(いにょう)し隨って道場に至る。

咸(ことごと)く大通智勝如来に親近(しんごん)して、供養・恭敬(くぎょう)・尊重(そんじゅう)・讃歎(さんだん)したてまつらんと欲(ほっ)し、到(いた)り已(おわ)って頭面(ずめん)に足(みあし)を礼(らい)し、仏を繞(めぐ)り畢已(おわ)って一心に合掌し、世尊を瞻仰(せんごう)して偈を以て頌(じゅ)して曰(もう)さく

大威徳世尊(だいいとくせそん)、衆生を度(ど)せんが為の故に、無量億歳(むりょうおくさい)に於て爾(しこう)して乃(いま)し成仏することを得ん。諸願已(しょがんすで)に具足(ぐそく)したまえり。善哉(よいかな)、吉、上無し。世尊は甚だ希有(けう)なり。一(ひと)たび坐して十小劫。身体及び手足、静然(じょうねん)として安(やすん)じて動ぜず。其の心、常に憺怕(たんぱく)にして未だ曽て散乱あらず。究竟(くきょう)して永く寂滅(じゃくめつ)し、無漏(むろ)の法に安住(あんじゅう)したまえり。今者(いま)世尊の安穏に仏道を成じたもうを見て、我等、善利(ぜんり)を得て、称慶(しょうけい)して大(おおい)に歓喜(かんぎ)す。衆生は常に苦悩し、盲冥(もうみょう)にして導師無し。苦尽(くじん)の道を識(し)らず。解脱を求むることを知らずして、長夜(じょうや)に悪趣(あくしゅ)を増(ま)し、諸天衆(しょてんしゅう)を減損(げんそん)す。冥(くら)きより冥きに入り、永く仏の名を聞かず。今、仏、最上安穏無漏(さいじょうあんのんむろ)の法を得たまえり。我等及び天・人、これ最大利(さいだいり)を得(え)たり。是の故に咸く稽首(けいしゅ)して無上尊を帰命(きみょう)したてまつる

爾の時に十六王子、偈をもって仏を讃(ほ)め已って、世尊に法輪(ほうりん)を転(てん)じたまえと勧請(かんじょう)し、咸く是の言(ことば)を作(な)さく。世尊、法を説きたまえ。安穏ならしむる所多からん。諸天・人民を憐愍(れんみん)し饒益(にょうやく)したまえ。