如来寿量品第十六

諸の子、毒(どく)を飲んで、或は本心(ほんしん)を失(うしな)える或は失わざる者あり。遥(はる)かに其の父を見て皆大に歓喜し、拝跪(はいき)して問訊(もんじん)すらく、善く安穏(あんのん)に帰りたまえり。我等、愚痴(ぐち)にして誤(あやま)って毒薬を服(ふく)せり。願(ねが)わくは救療(くりょう)せられて更(さら)に寿命を賜(たま)えと。

父、子等らの苦悩(くのう)すること是の如くなるを見て、諸の経方(きょうぼう)に依(よ)って好(よ)き薬草(やくそう)の色(しき)・香(こう)・美味(みみ)皆悉(ことごと)く具足(ぐそく)せるを求(もと)めて、擣簁和合(とうしわごう)して子に与(あた)えて服せしむ。而して是の言を作さく、此の大良薬(だいろうやく)は色・香・美味皆悉く具足せり。汝等服すべし。速(すみや)かに苦悩を除(のぞ)いて復衆(もろもろ)の患(うれい)なけんと。

其の諸の子の中に心を失わざる者は、此の良薬の色・香倶に好きを見て即(すなわ)ち之(これ)を服するに、病(やまい)悉く除(のぞ)こり愈(い)えぬ。

余(よ)の心を失える者は其の父の来れるを見て、亦歓喜し問訊(もんじん)して病を治(じ)せんことを求索(もと)むと雖も、然も其の薬を与うるに而も肯(あえ)て服せず。

所以は何ん。毒気(どっけ)深(ふか)く入って本心(ほんしん)を失えるが故に、此の好き色・香有る薬に於て美(よ)からずと謂えり。