父是の念(ねん)を作さく、此の子、愍(あわれ)むべし。毒に中(あて)られて心皆顛倒(てんどう)せり。我を見て喜(よろこ)んで救療を求索むと雖も、是の如き好き薬を而も肯て服せず。我今当に方便を設(もう)けて此の薬を服せしむべし。
即ち是の言を作さく、汝等当に知るべし、我今衰老(すいろう)して死(し)の時已(すで)に至りぬ。
是の好き良薬を今留(とど)めて此に在(お)く。汝取(と)って服すべし、差(い)えじと憂(うれ)うることなかれと。
是の教(おしえ)を作し已って復他国(たこく)に至り、使(つかい)を遣(つか)わして還(かえ)って告ぐ、汝が父已に死しぬと。
是の時に諸の子、父背喪(はいそう)せりと聞いて心大に憂悩(うのう)して、是の念を作さく、若し父在(いま)しなば我等を慈愍(じみん)して能く救護(くご)せられまし。今者(いま)我を捨(す)てて遠く他国に喪(そう)したまいぬ。
自(みずか)ら惟(おもんばか)るに孤露(ころ)にして復恃怙(じご)無し。常に悲感(ひかん)を懐いて心遂(つい)に醒悟(しょうご)し、乃ち此の薬の色・香・味、美(よ)きを知って、即ち取って之を服するに毒の病皆(みな)愈(い)ゆ。
其の父、子悉く已に差ゆることを得(え)つと聞いて、尋(つ)いで便ち来り帰って咸(ことごと)く之に見(まみ)えしめんが如し。
諸の善男子、意に於て云何、頗(も)し人の能く此の良医の虚妄(こもう)の罪(つみ)を説くあらんや不や。不也(いななり)、世尊。