安楽行品第十四

文殊師利、此の法華経は諸仏如来の秘密の蔵(ぞう)なり。諸経の中に於て最も其の上(かみ)に在り。長夜(じょうや)に守護して妄りに宣説せざるを、始めて今日に於て乃ち汝等がために而も之を敷演(ふえん)す。

爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、

常に忍辱を行じ一切を哀愍(あいみん)して乃ち能く仏の讃(ほ)めたもう所の経を演説す。 後の末世の時に此の経を持たん者は、家(け)と出家と及び非菩薩(ひぼさつ)とに於て慈悲を生ずべし。斯れ等は是の経を聞かず信ぜず。則ち為れ大に失えり。我、仏道を得て諸の方便を以て為に此の法を説いて其の中に住せしめん。

譬えば強力の転輪の王、兵の戦うて功有るに諸物の象馬・車乗・厳身の具及び諸の田宅・聚落・城邑を賞賜(しょうし)し、或は衣服・種々の珍宝・奴婢・財物を与え歓喜して賜与す。如(も)し勇健(ゆうごん)にして能く難事を為すこと有るには、王、髻中の明珠を解(と)いて之を賜(たまわ)わんが如く、如来も亦(また)爾(しか)なり。

為(わ)れ諸法の王、忍辱の大力、智慧の宝蔵(ほうぞう)あり。大慈悲を以て法の如く世を化(け)す。一切の人の諸の苦悩を受け、解脱を欲求(よくぐ)して諸の魔と戦うを見て、 是の衆生の為に種々の法を説き、大方便を以て此の諸経を説く。既(すで)に衆生、其の力を得已(えおわ)んぬと知っては末後(まつご)に乃ち為に是の法華を説くこと、王、髻(もとどり)の明珠を解いて之を与えんが如し。