上根上智(じようこんじようち)の人のために必ず大法を説くならば、初成道(しよじようどう)の時なんぞ法華経をとかせ給はざる。正法の先(さき)五百余年に大乗経を弘通すべし。
有縁(うえん)の人に大法を説かせ給ふならば、浄飯大王(じようぼんだいおう)・摩耶夫人(まやぶにん)に観仏三昧経(かんぶつさんまいきよう)・摩耶経(まやきよう)をとくべからず。
無縁(むえん)の悪人・謗法(ほうぼう)の者に秘法をあたえずば、覚徳比丘(かくとくびく)は無量の破戒の者に涅槃経をさづくべからず。不軽(ふきよう)菩薩は誹謗(ひほう)の四衆(ししゆ)に向つていかに法華経をば流通(るつう)せさせ給ひしぞ。
されば機に随ひて法を説くと申すは大なる僻見(びやつけん)なり。