問うて云く、機にあらざるに大法を授けられば、愚人(ぐにん)は定めて誹謗をなして悪道に堕(お)つるならば、あに説く者の罪にあらずや。
答へて云く、人路をつくる。路に迷ふ者あり。作る者の罪となるべしや。良医(りようい)薬を病人にあたう。病人嫌いて服せずして死せば、良医の失(とが)となるか。
尋(たず)ねて云く、法華経の第二に云く、〔「無智の人の中にこの経を説くことなかれ」〕。同じき第四に云く、〔「分布(ぶんぷ)して妄(みだ)りに人に授与すべからず」〕。同じき第五に云く、〔「この法華経は諸仏如来の秘密(ひみつ)の蔵(ぞう)なり。諸経の中において最もその上(かみ)にあり、長夜(じようや)に守護して妄(みだ)りに宣説(せんぜつ)せざれ」〕等と云云。これらの経文は機にあらずば説かざれというか、いかん。
今反詰(ほんきつ)して云く、〔不軽品(ふきようぼん)に云く、「しかもこの言(ことば)をなさく、我れ深く汝等(なんだち)を敬(うやま)う」等と云云。「四衆(ししゆ)の中に瞋恚(しんに)を生じ、心不浄(こころふじよう)なる者あり。悪口罵詈(あつくめり)して言(いわ)く、この無智(むち)の比丘(びく)」と。また云く、「衆人或(しゆうにんあるい)は杖木瓦石(じようもくがしやく)をもつてこれを打擲(ちようちやく)す」等と云云。勧持品(かんじほん)に云く、「諸(もろもろ)の無智の人の悪口罵詈等(あつくめりとう)し、及び刀杖(とうじよう)を加うる者あらん」〕と云云。これらの経文は、悪口罵詈乃至(ないし)打擲すれどもととかれて候は、説く人の失(とが)となりけるか。