無量義経徳行品第一

大いなる哉、大悟大聖主(だいごだいしょうしゅ) 垢(く)無く染(せん)無く所著(しょじゃく)無し

天・人・象・馬の調御師 道風徳香一切に薫じ 智恬(しず)かに情泊(しず)かに慮(りょ)凝静(ぎょうじょう)なり 意滅し識亡して心亦(また)寂なり 

永く夢妄(むもう)の思想念(しそうねん)を断じて 復、諸大陰入界(しょだいおんにゅうかい)無し

其の身は有に非ず亦無に非ず 因に非ず縁に非ず

自他に非ず 方に非ず 円に非ず 短長に非ず 

出に非ず 没に非ず 生滅に非ず 

造に非ず 起に非ず 為作に非ず 坐に非ず 臥に非ず 行住に非ず 

動に非ず 転に非ず 閑静に非ず 進に非ず 退に非ず 安危に非ず 

是に非ず 非に非ず 得失に非ず

彼に非ず 此に非ず 去来に非ず 

青に非ず 黄に非ず 赤白に非ず 紅に非ず 紫(し)種々の色に非ず 

戒・定・慧・解・知見より生じ 三昧・六通・道品より発し 慈悲・十力・無畏より起こり 衆生善業の因縁より出でたり

示して丈六紫金(じょうろくしこん)の暉(ひかり)を為し 方整照曜(ほうしょうしょうよう)として甚だ明徹(みょうてつ)なり 毫相(ごっそう)月のごとく旋(めぐ)り項(いただき)に日の光あり 旋髪紺青(せんほつこんじょう)にして頂に肉髻(にっけい)あり 浄眼明鏡(じょうげんみょうきょう)のごとく上下に(まじろ)ぎ 眉睛紺舒(みしょうけんじょ)にして方(ただ)しき口頬(くきょう)なり 唇舌赤好(しんぜつしゃっこう)にして丹華(たんげ)の若く 白歯(びゃくし)の四十なる、猶、珂雪(かせつ)のごとし 額広く鼻修(なが)く面門(めんもん)開け 胸に万字を表して師子の臆(むね)なり 手足柔軟(しゅそくにゅうなん)にして千輻(せんぷく)を具(そな)え 腋掌合縵(やくしょうごうまん)あって内外に握(にぎ)れり 臂修肘長(ひしゅうちゅうじょう)にして指直(なお)く繊(ほそ)し 皮膚細軟(ひふさいなん)にして毛右に旋(めぐ)れり 踝膝露現(かしつろげん)し陰馬蔵(おんめぞう)にして 細筋鎖骨鹿膊脹(さいこんさこつろくせんちょう)なり 表裏映徹(ひょうりようてつ)し浄くして垢無し 濁水(じょくすい)も染むる莫(な)く塵を受けず 是の如き等の相三十二あり 八十種好見る可きに似たり

而も実には相非相の色無し 一切の有相(うそう)眼(まなこ)の対絶(たいぜつ)せり 無相の相にして有相の身なり 衆生身相の相も亦然(しか)なり 

能く衆生をして歓喜し礼して 心を投じ敬いを表して慇懃(おんごん)なることを成ぜ令(し)む 是れ自高我慢(じこうがまん)の除(のぞ)こるに因(よ)って 是の如き妙色の躯(み)を成就したまえり 

今我等八万の衆 倶に皆、稽首(けいしゅ)して咸(ことごと)く 善く思想心意識(しそうしんいしき)を滅したまえる 象馬調御(ぞうめじょうご)無著(むじゃく)の聖(しょう)に帰命したてまつる

稽首して法色身 戒・定・慧・解・知見聚(ちけんしゅ)に帰依したてまつる 

稽首して妙種相(みょうしゅそう)に帰依したてまつる 

稽首して難思議(なんしぎ)に帰依したてまつる 

梵音雷震(ぼんのんらいしん)のごとく響(ひび)き八種あり 微妙清浄(みみょうしょうじょう)にして甚(はなは)だ深遠(じんのん)なり 四諦・六度・十二縁 衆生の心業(しんごう)に随順して転じたもう 若し聞くこと有るは意(こころ)開けて 無量生死の衆結(しゅけつ)断せざること莫(な)し 聞くこと有るは或いは須陀洹(しゅだごん)・ 斯陀(しだ)・阿那(あな)・阿羅漢 無漏無為(むろむい)の縁覚処(えんがくしょ)、無生無滅(むしょうむめつ)の菩薩地(ぼさつじ)を得 或(ある)いは無量の陀羅尼 無礙の楽説大弁才(ぎょうせつだいべんざい)を得て 甚深微妙(じんじんみみょう)の偈を演説し 遊戯(ゆけ)して法の清渠(しょうこ)に澡浴(そうよく)し 或いは躍(おど)り飛騰(ひとう)して神足(じんそく)を現じ 水火に出没して身自由なり 如来の法輪相(ほうりんそう)是の如し 清浄無辺にして思議し難し 

我等、咸(ことごと)く復(また)共(とも)に稽首して 法輪転じたもうに時を以てするに帰命したてまつる 

稽首して梵音声(ぼんのんじょう)に帰依したてまつる 

稽首して縁・諦・度に帰依したてまつる 

世尊、往昔(おうしゃく)の無量劫に 勤苦(ねんごろ)に衆(もろもろ)の徳行を修習して 我れ人・天・龍神王の為にし 普く一切の諸の衆生に及ぼしたまえり 能く一切の諸の捨て難き 財宝・妻子及び国城を捨てて 法の内外に於て悋(おし)む所無く頭目髄脳(ずもくずいのう)悉(ことごと)く人に施せり 

諸仏の清浄の禁を奉持して 乃至(ないし)命を失えども毀傷(きしょう)したまわず 若し人、刀杖(とうじょう)をもって来って害を加え 悪口罵辱(あっくめにく)すれども終に瞋りたまわず 劫を歴て身を挫(くだ)けども倦惰(けんだ)したまわず 昼夜に心を摂めて常に禅に在り 遍く一切の衆の道法を学して 智慧深く衆生の根に入りたまえり 

是の故に今自在の力を得て 法に於て自在にして法王と為りたまえり 我、復、咸く共倶(とも)に稽首して 能く諸の勤め難きを勤めたまえるに帰依したてまつる