爾の時に諸子、父の所説の珍玩の物を聞くに、其の願いに適(かな)えるが故に、心、各(おのおの)勇鋭(ゆうえい)して互(たが)いに相(あい)推排(すいはい)し、競(きそ)うて共に馳走(ちそう)し、争(あらそ)うて火宅を出ず。
是の時に長者、諸子等の安穏に出ずることを得て、皆、四衢道(しくどう)の中の露地に於て坐して、復(また)障礙(しょうげ)無く、其の心、泰然(たいねん)として歓喜踊躍(かんぎゆやく)するを見る。
時に諸子等、各(おのおの)父に白して言さく、父、先に許す所の玩好の具の羊車・鹿車・牛車、願わくは時に賜与(しよ)したまえ。
舎利弗、爾の時に長者、各、諸子に等一(とういち)の大車(だいしゃ)を賜(たま)う。其の車、高広(こうこう)にして衆宝荘校(しゅうほうしょうきょう)し、周帀して欄楯(らんじゅん)あり。四面に鈴を懸(か)け、又、其の上に於て幰蓋(けんがい)を張(は)り設(もう)け、亦、珍奇の雑宝(ざっぽう)を以て之を厳飾(ごんじき)し、宝縄絞絡(ほうじょうきょうらく)して諸の華瓔(けよう)を垂(た)れ、おん綖(ねん)を重(かさ)ね敷(し)き丹枕(たんちん)を安置せり。駕(が)するに白牛(びゃくご)を以てす。膚色充潔(ふしきじょうけつ)に形体姝好(ぎょうたいしゅこう)にして大筋力(だいこんりき)有り。行歩平正(ぎょうぶびょうじょう)にして其の疾きこと風の如し。又、僕従(ぼくじゅう)多くして之を侍衛(じえい)せり。所以は何ん。是の大長者、財富無量にして、種々の庫蔵(こぞう)悉く皆充溢(みなじゅういつ)せり。