譬喩品第三

而も是の念を作さく、我が財物(ざいもつ)極(きわ)まり無し。下劣(げれつ)の小車を以て諸子等に与(あた)うべからず。今、此の幼童(ようどう)は皆是れ吾(わ)が子なり。愛するに偏党(へんとう)無し。我、是の如き七宝の大車有って其の数無量なり。当に等心(とうしん)にして各々に之を与うべし。宜しく差別(しゃべつ)すべからず。所以は何ん。我が此の物を以て周(あまね)く一国に給うとも、なお匱(とぼ)しからじ。何に況んや、諸子をや。

是の時に諸子、各、大車に乗って未曽有なることを得るは本の所望に非ざるが若(ごと)し。

舎利弗、汝が意に於て云何(いかん)。是の長者、等しく諸子に珍宝の大車を与うること、寧(むし)ろ虚妄(こもう)有りや不(いな)や。

舎利弗の言さく、不(いな)なり。世尊、是の長者、但(ただ)諸子をして火難(かなん)を免(まのが)れ、其の躯命(くみょう)を全(まっと)うすることを得せ令(し)むとも、これ虚妄に非ず。何を以ての故に。若し身命を全うすれば、便ち為(こ)れ已(すで)に玩好(がんこう)の具(ぐ)を得たるなり。況(いわ)んや、復、方便して彼の火宅より而も之を抜済(ばっさい)せるをや。世尊、若し是の長者、乃至最小の一車を与えざるとも、猶(な)お虚妄ならじ。何を以ての故に。是の長者、先に是の意を作さく、我、方便を以て子をして出ずることを得せしめんと。是の因縁を以て虚妄無し。何(いか)に況(いわ)んや、長者、自ら財富無量なりと知って、諸子を饒益せんと欲して等しく大車を与うるをや。